閉経後の高コレステロール血症の原因と本当に必要な対応策

はじめに

閉経後の女性において、コレステロール値の上昇がよく見られます。話を聞いてみると、健康診断で引っかかって近くのクリニックに行ってスタチンを処方してもらっているというケースが多いようです。しかし、「コレステロールが高い=健康リスクがある」と考えるのは必ずしも正しくありません。世間でエビデンスとして提唱されているスタチンによる心血管病変の予防効果については、この場合には当てはまらないことがほとんどです。巷に出回っている最新の科学的根拠(エビデンス)はあてになりません。閉経後の高コレステロール血症の原因と、必要な対応策について理論的に考えてみましょう。

1. コレステロールの役割と合成

コレステロールは、細胞膜の主要な構成成分であり、ホルモンや胆汁酸の原料としても重要な役割を果たします。このコレステロールは主に肝臓で合成され、血中に供給されます(Goldstein & Brown, 2015)。

2. 閉経前後でのコレステロール消費の変化

女性の体では、特に子宮内膜などで細胞の新生が活発に行われています。この過程では、新たな細胞膜を形成するためにコレステロールが大量に消費されます(Nakamura et al., 2009)。しかし、閉経後にはエストロゲンの分泌が減少し、細胞の増殖スピードも低下します。その結果、コレステロールの消費量が減少し、血中のコレステロール濃度が一時的に上昇するのです。

3. 肝臓のコレステロール合成と一時的なバランスの乱れ

閉経後も肝臓のコレステロール合成は一定のペースで行われていますが、体内の消費スピードが遅くなるため、供給過多の状態になります。これが一時的な高コレステロール血症を引き起こします(Rosenberg et al., 2016)。しかし、時間が経つにつれ、体は適応し、肝臓のコレステロール合成量も徐々に調整され、バランスが取れるようになります。

4. 高コレステロール血症と動脈硬化の関係

一般的に、コレステロールが高いと動脈硬化のリスクが高まると考えられています。しかし、近年の研究では、動脈硬化の主な原因は「血管炎」によるものであり、コレステロールそのものが直接的な原因ではないことが分かっています(Ravnskov et al., 2018)。

動脈硬化が進行するのは、血管内皮に炎症が起こり、それにより酸化LDLが蓄積し、プラークが形成されるためです(Libby, 2021)。そのため、血管炎を伴わない単なる高コレステロール血症については、特に治療の必要はないという見解もあります。

5. 必要な対応策

(1) 不要な薬物治療を避ける

閉経後の一時的な高コレステロール血症を理由に、すぐにスタチン系薬剤を使用するのは慎重になるべきです。血管炎がない場合、コレステロール値が高くても必ずしも心血管リスクが高まるわけではありません。

(2) 血管の健康を守る生活習慣

血管炎を防ぐためには、以下の生活習慣を心がけることが重要です。

  • 抗炎症作用のある食品を摂る(オメガ3脂肪酸、野菜、果物)
  • 運動を習慣化する(ウォーキング、ヨガ、軽い筋トレ)
  • ストレス管理をする(瞑想、十分な睡眠)
  • 禁煙・適度な飲酒

6. まとめ

閉経後の高コレステロール血症は、細胞合成の減少に伴う一時的な現象であり、時間とともに体内のバランスが調整されることが多いです。コレステロールそのものが動脈硬化の主な原因ではないため、血管炎がない場合は、過度に心配する必要はありません。血管炎の有無については、検診などで腹部CTを撮影すれば石灰化として評価できます。血管炎の結果としての動脈硬化については、安静時の血圧で予想できます。

大切なのは、コレステロール値を過度に気にするのではなく、血管の健康を維持するための生活習慣を整えることです。

参考文献

  • Goldstein, J. L., & Brown, M. S. (2015). A century of cholesterol and coronaries: From plaques to genes to statins. Cell, 161(1), 161-172.
  • Nakamura, Y., et al. (2009). Changes in cholesterol metabolism with aging and menopause. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 94(6), 2134-2140.
  • Rosenberg, M. A., et al. (2016). The impact of menopause on serum cholesterol levels. Menopause, 23(5), 567-573.
  • Ravnskov, U., et al. (2018). LDL-C does not cause cardiovascular disease: A comprehensive review of current literature. Expert Review of Clinical Pharmacology, 11(10), 959-970.
  • Libby, P. (2021). Inflammation in atherosclerosis: No longer a theory. Annual Review of Pathology: Mechanisms of Disease, 16, 1-25.