頻尿の本当の原因とは? 仕組みがわかれば改善方法は理論的に導くことができる

■ なぜ今、頻尿に悩む人が増えているのか?

健康診断や日常の診療現場で、「頻尿」に関する相談は年々増加しています。私の経験で多いときには10人中8人から頻尿の悩みを聞くこともあります。インターネットやメディアでは「過活動膀胱(Overactive Bladder)」という病名と、それに対する薬の情報が多数紹介されています。実際に投薬を受けている患者さんやサプリを試している方も多数いらっしゃるようですが話を聞いてみると薬を使っても改善が見られない人も少なくありません。本記事では、頻尿の正体と改善法について、理論的に考えてみます。

■ 頻尿=病気とは限らない

まず押さえておきたいのは、頻尿のすべてが病気に由来するわけではないということです。過活動膀胱や前立腺肥大症、膀胱炎などの疾患による頻尿もありますが、実は大多数のケースは病気ではない生理的な頻尿です。当たり前ですが、この場合は薬やサプリメントは根本的な解決にはなりません。正しく体の仕組みを理解し、生活習慣を見直すことが何よりも重要になります。

■ 膀胱の仕組みと“頻尿体質”の関係

膀胱は、筋肉でできた風船のような臓器です。尿が溜まると膀胱が膨らみ、壁が引き伸ばされることで神経が刺激され、「尿意」として脳に伝わります。この「膨らむ力=膀胱の柔軟性」が重要なカギです。筋肉は使わずにいると、柔軟性を失って硬く短くなる傾向があるのは皆さんご存じの通りです。これを医学的には「筋拘縮(きんこうしゅく)」と呼びますが、そこまで行かなくても筋肉は使わずにいると、柔軟性を失って硬く短くなる傾向があります。このような現象は骨格筋に限らず、膀胱のような内臓の平滑筋でも同様に起こる可能性が指摘されています。たとえば、長期間にわたって膀胱を十分に拡張する機会がないと、膀胱の筋肉(膀胱平滑筋)は徐々に伸びにくくなり、柔軟性が失われて「少しの尿でも張力が高くなる=すぐ尿意が出る」状態になります。

◯ ストレッチの重要性は膀胱にも応用できる

膀胱の筋肉を緩めるためには筋肉の構造的・機能的性質に基づいた理論から考えて、他の筋肉と同様にストレッチ(拡張)が有効であると推論できます。私たちが四肢の柔軟性を保つためにストレッチをするのと同じように、膀胱にも「定期的な拡張=ストレッチ」が必要なのです。膀胱を定期的に十分拡張することで、筋肉の伸展性を維持し、「尿意が出にくくなる膀胱」に育てることができます。現代では、清潔なトイレがあちこちにあり、「少し溜まったらすぐに排尿する」習慣が定着しています。このような生活は、膀胱の十分なストレッチ機会を奪っていると考えられています。実際、意識的に排尿を少し我慢して膀胱を拡張させることで、膀胱の容量が増し、尿意を感じにくくなることが研究でも示されています。

■ 排尿の仕組みと骨盤底筋の関係

立位で撮影できるCTなどで観察してみると、排尿の際には腹圧がかかって膀胱が下に押されることで尿が排出されることがわかってきました。膀胱が下がることで排尿シグナルが出るわけですが、これを下から支えているのが「骨盤底筋群」です。加齢や運動不足、出産などによりこの筋肉が衰えると、膀胱が本来より下がりやすくなり、その位置変化だけで排尿シグナルが発生しやすくなる=頻尿の原因となるのです。

膀胱を下げるもう一つのファクターとして、重要になるのが、膀胱の物理的な圧迫です。加齢や生活習慣に伴い、内臓脂肪が病的に増えることで、腸や胃といった腹部の臓器が下に押し出され、結果的に膀胱を圧迫します。膀胱が上部から物理的に圧迫されると、下に下がって排尿シグナルが送られるだけで無く、物理的に膀胱が膨らむ余裕がなくなり、わずかな尿量でも「満杯」と判断され、排尿シグナルが送られるようになります。これが内臓脂肪が引き起こす頻尿のメカニズムです。

女性の場合には、大きな子宮筋腫があると、膀胱を物理的に圧迫しますがこの場合も、内臓脂肪と同様に膀胱の可動域が狭くなり、排尿シグナルが早く出てしまうため、頻尿の原因となります。婦人科的な検査で子宮筋腫の存在が確認された場合は、専門医との連携が必要です。

■ 頻尿改善のためにできること

このように体と排尿の仕組みが理解できれば頻尿改善のためにするべき事はおのずと明らかになります。

✅ 1. 膀胱ストレッチ(排尿我慢トレーニング)

トイレに行ける状況でも、少しの間だけ我慢してみましょう。徐々に我慢できる時間を伸ばしていくことで、膀胱の容量が増えていきます。

✅ 2. 骨盤底筋トレーニング

骨盤底筋は膀胱を下から上に支える筋肉です。筋肉なので筋トレで鍛えることができるのですが、ジムでマシンを使う筋トレのイメージではなくヨガやピラティスなどの体幹強化を伴う自重筋トレのイメージです。

✅ 3. 内臓脂肪の減少

別の記事でも書きましたが、内臓脂肪を減らすのは簡単です。病的に蓄積した内臓脂肪を生活習慣の改善で減らすことには何のリスクもないので、内臓脂肪が蓄積している場合にはまずは膀胱を下に圧迫している内臓脂肪を減らしてしまいましょう。これにより、膀胱への圧迫が軽減し、頻尿が自然に改善するはずです。

■ まとめ

頻尿に悩んでいる方の多くは、「病気」ではなく生活習慣や加齢による身体の使い方の変化が原因です。その場合、最新のエビデンスで治療効果があるとされる薬剤でも実際にはあまり効果はなく、それよりも膀胱の柔軟性を高め、骨盤底筋を鍛え、内臓脂肪を減らすという理論に裏打ちされた根本的な対策が、効果を発揮することになります。まずは体の仕組みを理解し、自分の生活を見直すことから始めてみてください。

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