紫外線とビタミンDの正しい関係──スキンタイプ別戦略で賢く日光を浴びる

はじめに

前回の記事では、ビタミンDを効率的に合成するためには、陽射しの強い夏に日光浴することが重要であると述べました。しかし、紫外線の浴びすぎは皮膚がんや光老化などのリスクもあるため、特に肌の健康を気にする方々にとっては、その実践が難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。

この記事では、紫外線の影響を評価する指標である「最低紅斑量(MED)」をもとに、ご自身のスキンタイプに合わせた最適なビタミンD合成戦略を理論的に考えていきます。安全に、そして賢く日光を浴びるための具体的なアプローチを探りましょう。

MEDとは何か?──肌タイプと紫外線の関係

紫外線が皮膚に与える影響の指標として、「紅斑(ほてりや赤み)」が用いられます。皮膚に明確な赤みを生じさせる最小の紫外線照射線量をMED(Minimal Erythema Dose:最小紅斑線量)と呼び、単位は  J/m² または mJ/cm² で表されます。このMEDは、人種や肌質(スキンタイプ)によって大きく異なり、紫外線への耐性やビタミンD合成効率も違ってきます。

以下は日本人に多いとされるスキンタイプ II および III のMEDの目安です。これらのデータは、紫外線を安全に活用する上での基準となります。

スキンタイプ 特徴 MEDの目安
タイプ II 白人系、やや日焼けするが赤くなりやすい 約250 J/m²(=25 mJ/cm²)
タイプ III 混血・中間型、やや褐色、日焼けしやすい 約300〜400 J/m²(30〜40 mJ/cm²)

ビタミンD合成に最適なUVB量:MEDの25%が目安

皮膚へのダメージを最小限に抑えつつビタミンDを効率的に合成するには、MEDの1/4(25%)程度のUVB照射量が目安になります。この程度の照射であれば、紅斑などの有害作用がほぼ生じないとされており [1]、多くの研究でもこの範囲でのビタミンD合成が推奨されています。

具体的に、夏の晴天で正午前後のUVインデックス8相当におけるUVB照度(札幌0.15 W/m²、浜松0.18 W/m²)を元に皮膚1 m²あたりに 0.25 MED(= 約62.5 J/m²) のUVBエネルギーを照射するために必要な時間を計算してみましょう。

- 札幌:約 6.9 分

- 浜松:約 5.8 分

となります。天候は雲の状態などで微妙に変動するため安全域を見積もる必要がありますが、日差しの弱い札幌でも夏であれば大体10分弱の日光照射で 0.25MED になると考えられます。では、この安全な10分弱の日光照射で、どれぐらいのビタミンDが合成されるかを計算してみましょう。

露出面積の考慮:全身 vs 手足のみ

ここで理解しておくべき重要な情報は、UVBによる皮膚への悪影響(紅斑やDNA損傷など)は「単位面積あたりの線量(J/m²)」に依存しますが、ビタミンDの合成量は「皮膚に照射された総エネルギー量」に比例するということです。

成人の全身表面積は:

  • 男性:約1.9 m²
  • 女性:約1.6 m²

日光が実際に照射可能な皮膚の面積(前面・背面の外層)として、実質照射可能面積は約1.0 m²が現実的な値とされます。全身に照射を実質照射可能面積の約1.0 m²と考えて計算した場合、スキンタイプ II の人では、

  • 0.25 MED = 62.5 J/m² = 6.25 mJ/cm² のUVBを全身照射=10分間の日光浴で、
  • 3,750 IU のビタミンD3が合成されると報告されています(Webb et al., 1988)。この量は、一般的に1日あたりに必要とされるビタミンD(400 IU)の9倍以上に相当します。

この1.0 m²の全身照射は具体的には水着になって体の表と裏をまんべんなく日光浴するイメージとなります。UVBの合成量は3750IUと大量ですが、単位面積あたりの照射線量は0.25 MED相当なので日焼け等の有害作用の心配はありません。

その一方で、顔には日焼け止めを使用し、半袖シャツに長ズボンを着用して両手+両腕だけを露出している場合の面積はおおよそ全身の21%=0.21 m²。この面積に0.25 MEDを照射した場合のビタミンD合成量は:

  • 0.21 × 3,750 IU ≒ 約790 IU

これでも1日に必要な合成量の400IUは十分超えているのですが以前の記事でも述べたように、ビタミンDは脂溶性であり、皮下脂肪組織に数週間から数か月単位で貯蔵されます。そのため、1日ごとの合成量を気にするよりも、夏の間に、できるだけたくさんのビタミンDを合成して脂肪組織に貯蔵しておくことを意識することが重要です。

仮に合成量は単純に時間と面積に比例すると考えると、全身照射10分と同じ3750IUを合成するためには半袖長ズボンだと47分の照射が必要となります。この場合、両腕に受ける照射面積あたりのエネルギーは29.8 mJ/cm²となりMEDを超える照射が必要です。このように考えると、露出面積を増やすことが、皮膚に無理な負担をかけずに多くのビタミンDを合成するための理論的には最善策です。

結論:賢く日光を浴びるために

  • MEDの25%程度のUVB照射 = 夏の晴天下の札幌では10分弱であれば、健康リスクを抑えながら十分なビタミンD合成が可能です。
  • 10分の日光浴でも水着になって全身にUVB照射を受けることができれば3,750 IUと一日の必要量の約9倍を合成することが可能です。
  • UVBの悪影響リスクを排してビタミンDの合成効率を上げるために露出面積の拡大(肌の露出)が最も安全な方法です。                
  • ビタミンDは脂肪組織に蓄積されるので1日ごとの合成量を気にするよりも、夏の間に、できるだけたくさんのビタミンDを合成して貯蔵しておくことが重要です。

引用文献

  • Holick MF. (2007). Vitamin D deficiency. New England Journal of Medicine, 357(3), 266–281.
  • Webb AR, Kline L, Holick MF. (1988). Influence of season and latitude on the cutaneous synthesis of vitamin D3: exposure to winter sunlight in Boston and Edmonton will not promote vitamin D3 synthesis in human skin. J Clin Endocrinol Metab, 67(2), 373–378.
  • Norval M, et al. (2010). The human health effects of ozone depletion and interactions with climate change. Photochemical & Photobiological Sciences, 9(1), 3–13.