季節の変わり目の「鼻風邪」は、実はアレルギーではない —— 血管運動性鼻炎という体の防衛反応

季節の変わり目になると、朝に鼻水が出たり、くしゃみが止まらなくなったりする「鼻風邪」のような症状を訴える人が多くなります。多くの人が「花粉症の始まり」と思い込みますが、実際にはアレルギーとは関係がないことが少なくありません。

この現象の多くは「血管運動性鼻炎(vasomotor rhinitis)」と呼ばれ、いわゆる寒暖差アレルギーとも言われます。しかし「アレルギー」という呼び方は誤解を生むもので、アレルゲンは存在せず、体が温度や湿度の変化に適応しようとする自律神経の反応にすぎません[1,2]。

アレルギー性鼻炎との違い

アレルギー性鼻炎は、花粉・ダニ・カビなどのアレルゲンに対して免疫反応が起こり、IgE抗体を介してヒスタミンが放出されることで症状が生じます。一方、血管運動性鼻炎ではIgEやアレルゲンの関与はなく、環境因子(温度・湿度・刺激臭・ストレスなど)によって鼻粘膜の血管や分泌腺を制御する自律神経反射の異常が関与しています[3,4]。このため、アレルギー検査をしても陰性であり、炎症性マーカーも上昇しません。鼻水は透明でさらさらしており、発熱や全身症状を伴わないのが特徴です。

鼻は「加湿器」であり「フィルター」

鼻の役割のひとつは、吸い込んだ空気を加温・加湿し、異物を除去することです。外気が乾燥して冷たいとき、鼻粘膜の毛細血管が拡張し、血流を増やすことで空気を温めます。同時に、粘膜の分泌腺が活性化して湿度を補うため、鼻水が多くなります。

つまり、鼻水は「体の加湿システム」が正しく作動しているサインなのです。寒暖差が大きい季節の変わり目には、この調節が一時的に過剰となり、くしゃみや鼻水が出やすくなります。これは体が環境に順応する過程で起こる防衛反応と考えられます[5]。

自律神経が鼻粘膜をコントロールしている

鼻の血流と分泌は、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスによって制御されています。気温が下がると副交感神経が優位になり、鼻腺からの分泌が増えます。逆に暑い環境では交感神経が優位となり、血管が収縮して鼻が乾燥します[6]。

この切り替えの調整過程で、うまく落ち着くまでの間は時として過剰反応が起こり、鼻水やくしゃみが止まらなくなります。現代人は空調の整った室内で生活する時間が長く、1年を通じてほぼ一定の温湿度に囲まれています。そのため、自律神経が環境変化に対して過敏に反応しやすくなっており、血管運動性鼻炎が増えていると指摘されています[7]。

薬で「止める」より「整える」

血管運動性鼻炎は、病気というより生理的な反応の延長です。にもかかわらず、一般には「アレルギーの一種」と誤解され、抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬が多用されています。鼻炎に有効な治療薬、治療方法に関しては最新のエビデンスも数多く発表されているようですが最新のエビデンスほど役に立たないものはありません。これらの薬は、粘膜の分泌や血流を抑えることで症状を軽く感じさせますが、それは体の防御機能を止めているに過ぎません。つまり鼻粘膜の血流や分泌を抑制するため、粘膜の防御機能を損なう可能性があります[8]。

治療薬により鼻粘膜が乾燥すると、線毛運動が低下し、ウイルスや細菌の侵入を防ぐ力が落ちます。結果として、風邪や上気道感染症にかかりやすくなるのです[9]。さらに、抗ヒスタミン薬の長期使用は眠気や集中力低下、ステロイド薬の過剰使用は粘膜の菲薄化を招くことも報告されています[10]。

それにもかかわらず、市販薬やサプリ、点鼻薬の宣伝が絶えないのは、言うまでもなくマーケット目的の情報でありエビデンスだからです。症状を「病気」と定義し、治療薬を売り出すことがビジネスモデルになっています。しかし、体の理屈を理解すれば、「治すべきものではない」ことがわかるはずです。「症状を抑える」治療は、体の自然な恒常性を乱す方向に作用します。根本的な対策は、むしろ体の適応力(自律神経機能)を整えることにあります。

対策:寒暖差に「慣らす」ことが最善

この鼻炎を防ぐ最も自然な方法は、体を寒暖差に慣らすことです。朝晩の冷たい空気に少しずつ触れたり、軽い運動で体温調節機能を刺激したりすることが、自律神経のトレーニングになります。また、加湿を適切に保ち、冷えた外気を急に吸い込まないようにマスクを活用するのも有効です。これはいわば「自律神経のリハビリ」であり、薬ではなく生活環境で整えることが基本です。実際、非薬物療法として温度刺激や生活リズムの調整が効果的であることは複数の臨床研究で報告されています[11,12]。身体の仕組みから「季節の変わり目には朝に鼻水が出るものだ」と理解し、無理に止めようとしないことが大切です。

まとめ:鼻水は「体が環境に適応している証拠」

季節の変わり目に現れる鼻水やくしゃみは、花粉症やウイルス感染ではなく、自律神経による防衛反応であることが多いのです。薬で抑えるよりも、体の働きを理解して受け入れ、環境変化に慣らしていくことが、長期的には最も健康的な対応となります。

「朝に鼻水が出るのは、体が外気に慣れようとしているサイン」——そう考えれば、不要な薬や治療に頼る必要はありません。血管運動性鼻炎は治療不要。体の知恵に従うことが最良の治療です。

参考文献

  1. Baroody FM. Nonallergic rhinitis: Mechanisms and management. J Allergy Clin Immunol. 2011;128(5):1231–1243.
  2. Hellings PW, et al. Non-allergic rhinitis: Position paper of the European Academy of Allergy and Clinical Immunology. Allergy. 2017;72(11):1657–1665.
  3. Dykewicz MS, Hamilos DL. Rhinitis and sinusitis. J Allergy Clin Immunol. 2010;125(2 Suppl 2):S103–S115.
  4. Eccles R. Mechanisms of the symptoms of rhinitis. Rhinology. 2000;38(2):72–78.
  5. Togias A. Nonallergic rhinitis and its relationship to nasal hyperresponsiveness. J Allergy Clin Immunol. 2003;112(6):1098–1109.
  6. Baraniuk JN, et al. Neural control of mucosal blood flow and secretion. Clin Exp Allergy. 1998;28(Suppl 2):11–16.
  7. Seidman MD, et al. Clinical practice guideline: Allergic rhinitis. Otolaryngol Head Neck Surg. 2015;152(1 Suppl):S1–S43.
  8. van Cauwenberge P, et al. Pathophysiology of nonallergic rhinitis. Allergy. 2004;59(Suppl 76):14–20.
  9. Watelet JB, Van Cauwenberge P. Nasal inflammation and chronic rhinosinusitis. Acta Otorhinolaryngol Belg. 2004;58(3):225–233.
  10. Scadding GK. Topical corticosteroids in allergic rhinitis: Clinical efficacy and safety. Drugs. 2015;75(17):1873–1890.
  11. Kim KS, et al. Influence of thermal environment on nasal patency and airflow perception in healthy subjects. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2018;275(8):2099–2106.
  12. Staevska MT, et al. Management of nonallergic rhinitis: An evidence-based approach. Allergy Asthma Proc. 2010;31(6):445–451.

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