「PETで光らないのに、なぜ甲状腺がんを疑われるのか?」

― FDG集積の“有無”だけでは語れない画像診断の現実 ―

「友人はPET検査でFDGの集積がなかったのに、甲状腺がんの疑いで精密検査を勧められました。一方で、私は毎回PET検査で甲状腺にFDGの集積があるのに、がんの疑いはないと説明されています。FDGが集積しないのにがんを疑うなら、集積している方が、よりがんを疑うべきではないのでしょうか?」

PET検査を受けたことのある方から、このような疑問を投げかけられることは少なくありません。直感的にはもっともな疑問に聞こえますが、実はこの問いの中には、PET検査という画像診断の本質を理解するうえで非常に重要な誤解が含まれています。

日本人の甲状腺がんの大半は「FDGを使わないがん」

まず押さえておくべき事実があります。日本人に発症する甲状腺がんの大多数は「乳頭癌」というタイプです。この乳頭癌は、がんでありながらブドウ糖代謝が低く、FDG(ブドウ糖類似物質)をほとんど取り込みません。そのため、甲状腺乳頭癌はPET検査でFDGの集積が見られないのが“普通”です。PETで光らないからといって、がんでないとは限らず、むしろ甲状腺に関しては「光らないがん」が多数派なのです。

友人の方がPETで集積を認めなかったにもかかわらず、甲状腺がんの疑いで精査を勧められたのは、決して矛盾した対応ではありません。PET以外の超音波所見や結節の形状、石灰化、血流など、別の根拠から「がんの可能性が否定できない」と判断された結果です。

がんによるFDG集積は「形」と「数」が特徴的

一方で、甲状腺がんがFDGを集積する場合もあります。ただし、その集積の仕方には特徴があります。がんによるFDG集積は、甲状腺の中に限局した“塊”として現れるのが原則です。PET画像では、小さく丸い、結節状の集積として認識されます。これに対して、炎症によるFDG集積は全く異なります。炎症性変化では、甲状腺全体にびまん性にFDGが広がり、左右対称に近い形で集積が見られることが多くなります。同じ「集積がある」という現象でも、その分布と形状がまったく違うのです。

またもう一つ重要な原則があります。検診で見つかるような早期のがんは原則として単発です。甲状腺内に複数の集積が見られる場合は、たとえそれが結節状であっても、がんを強く疑う根拠にはなりません。多発性の場合は、炎症性変化や良性結節である可能性が高くなります。

良性結節はFDGを「よく集積する」

甲状腺には、炎症に伴って細胞の塊ができることがあります。いわゆる「炎症性結節」です。これらの結節は、がんではありません(=良性結節)が、代謝が活発なためFDGをよく取り込みます。その結果、PET検査では甲状腺の中に限局した“塊”としてはっきりと集積が見えることがあります。しかし、先述のように甲状腺がんは原則としてFDGを集積しないことや、このような炎症性結節は甲状腺がんよりも圧倒的に頻度が高いことから、PET検査で結節状集積があるからといっても直ちにがんを疑うことにはなりません。実際、慢性的に甲状腺炎を背景に持つ方では、毎回のPET検査で同じような集積が繰り返し観察されることがありますが、それが長年変化しなければ、がんの可能性は極めて低いと判断されます。

注意しないといけないのは、稀ではあるものの、FDGを集積するタイプの甲状腺がんも確かに存在するという点です。そのため、PETで甲状腺内に「単発の結節状集積」が認められた場合には、念のため精密検査を勧めることが普通です。

「それならPET検査に意味はないのか?」

ここまで読むと、「甲状腺がんはPETでわからないなら、PET検査をする意味がないのではないか」と感じる方もいるかもしれません。しかし、これは甲状腺がんに限った話ではありません。例えば前立腺がんなど、悪性度の低いがんについても、FDG-PETでは同じような考え方が当てはまります。がんだからといって、すべてが同じようにブドウ糖を使い、同じようにPETで光るわけではありません。

私たちはつい、「がん=すべて同じように危険」というイメージを持ちがちです。しかし現実には、悪性腫瘍の中にも非常におとなしいものと、進行が早く生命を脅かすものがあります。その悪性度の違いによって、画像診断の役割や評価の軸も変わります。

FDG-PETは「がんを見つける魔法の検査」ではなく、腫瘍の生物学的な性質を読み取るための検査です。「すべてのがんはPETでFDGを集積する」という単純な読影体系では、現実の診療は成り立ちません。だからこそ、PETの結果については、ターゲットとなる腫瘍の性質を考慮して解釈する必要があるのですが、それでは巷の情報と食い違うため説明に苦慮する場面が多く、誤解も生じやすいのです。

FDG集積は「答え」ではなく「手がかり」

PET検査でFDGの集積があるかないかは、診断の出発点にすぎません。重要なのは、その形、分布、数、経時変化、そして他の検査結果とどう整合するかです。PET検査は万能ではありませんが、正しく使えば、がんの性質を深く理解するための強力な手段になります。「光る・光らない」という二択で考えるのではなく、その背景にある生物学を読み取ることが、PET画像診断の本質であり、私たち専門医の役割なのです。