がん検診で見つかる嚢胞の対処法と考え方

健康診断や人間ドック、あるいは日常診療で腹部エコー(超音波検査)を行った際に、「肝嚢胞(かんのうほう)があります」「腎嚢胞(じんのうほう)が見つかりました」と言われたことはありませんか?多くの人がこのような「嚢胞」という言葉を聞くと、「何か病気ではないか」「将来、がんになるのではないか」と不安になるものです。しかし、実はこれらの嚢胞の大半は「偶発所見(たまたま見つかった異常)」であり、ほとんどが経過観察すら不要とされる良性の変化です。

本記事では、超音波検査で見つかることの多い小さな肝嚢胞や腎嚢胞について、その正体や対処法、どのような場合に注意が必要かなどを整理してみました。エビデンスを理論的に整理し直したわけではないので、どちらかと言うと一般的な知識と経験に基づいた記事です。

嚢胞とは?

嚢胞とは、体内に液体がたまって袋状になった構造のことを指します。中には粘液、漿液(しょうえき)、血液などが入っている場合もありますが、肝嚢胞や腎嚢胞の多くは無色透明の液体(水様性内容物)を含む、シンプルな構造です。エコー検査では、こうした液体の塊は「黒く」映ります。なぜなら、超音波は液体を通り抜けやすいため、反射がほとんど起こらずエコー画像上で無エコー(ブラック)として描出されるからです。嚢胞の典型像は、周囲が明瞭で内部が均一な黒い構造であり、良性所見と判断される材料になります。

肝嚢胞について

肝嚢胞は、肝臓にできる液体の袋で、文献上は成人の2~7%程度に見つかるとされています【1】。高齢者を対象とするがん検診では、もっと頻度は高く50%以上の受診者に見られる印象です。多くは単純性肝嚢胞(simple hepatic cyst)と呼ばれるもので、特に症状を引き起こすこともなく、生涯を通じて変化しない場合がほとんどです。

特徴

  • 大きさは数ミリ~数センチ程度。
  • 通常は多発することが多いが単発のこともある。
  • 内容物は水様で、感染や出血がなければ無症状。
  • 原因の多くは先天性(胎児期の肝内胆管形成異常)。

対処法

  • 10cm未満で症状がない単純性嚢胞は、基本的に治療や定期的な経過観察は不要です【2】。
  • 10cmを超えるもの、症状(圧迫感、腹部膨満、痛みなど)がある場合は、専門医に相談して必要に応じて治療(穿刺、硬化療法、手術など)を検討します。

腎嚢胞について

腎嚢胞は、腎臓にできる液体の袋で、特に中高年に多く、50歳以上では20%を超える頻度で見つかります【3】。こちらもがん検診ではもっと頻度が高く50%程度の受診者に見つかります。その多くは単純性腎嚢胞であり、良性です。

特徴

  • 通常は多発することが多いが単発のこともある。
  • 無症状かつ経年的にほぼ変化なし。
  • CTやMRIなどで「Bosniak分類」という良悪性のリスク分類が行われることもある。

対処法

  • 単純性腎嚢胞(Bosniak分類 I)は、原則として治療も経過観察も不要です【4】。
  • 石灰化、隔壁形成、内部の不均一性などがあれば、精密検査(CT、MRI)や泌尿器科紹介が必要になることがあります。
  • 多発性や遺伝性疾患(多発性嚢胞腎)の疑いがある場合には、追加の評価が行われます。

実はどこにでもできる「嚢胞」―その多くは心配不要

嚢胞は、肝臓や腎臓だけに限らず、脾臓、膵臓、甲状腺、卵巣、子宮頸部、副腎、前立腺、乳腺など、ほぼあらゆる臓器に形成される可能性がある構造です。これらの多くは、超音波検査やCT、MRIなどの画像検査で偶然に見つかることが多く、**「偶発性嚢胞(incidental cyst)」と呼ばれます。

肝臓、腎臓以外の臓器では以下のような部位で比較的よく見られます:

  • 卵巣嚢胞:排卵過程で一時的に形成される機能性嚢胞(例:卵胞嚢胞、黄体嚢胞)が多く、ほとんどは自然に消退。
  • 甲状腺嚢胞:甲状腺の一部に液体がたまるもので、良性の所見が多く、経過観察のみで十分な場合がほとんど。
  • 子宮頸部嚢胞(ナボット嚢胞):子宮頸管の腺が閉塞して液体がたまるもので、症状を伴うことはまれ。
  • 乳腺嚢胞:閉経前の女性に多く見られ、ホルモンの影響で出現することが多い。

これらの嚢胞は、多くの場合、がん化とは無関係で、自然に縮小・消失するものも少なくありません。検査をすれば身体のどこかに嚢胞があるのは当たり前なので、がん検診でどこにも嚢胞がみられないケースは稀です。

ただし、膵臓に関しては例外となることがあるため、次の章で詳しく解説します。

膵臓の嚢胞は例外

ここまで紹介してきた肝嚢胞や腎嚢胞と異なり、膵臓にできた嚢胞(膵嚢胞)は特別な扱いが必要です。

膵嚢胞の一部は、将来的にがんに進展する可能性がある「前がん病変」であることが知られており、偶発的に見つかった場合でも原則として経過観察や追加検査が必要とされます。

よく見られる膵嚢胞のタイプ

  • IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍):特に注意が必要なタイプで、がん化リスクあり。主膵管型・分枝型などの分類あり。
  • MCN(粘液性嚢胞性腫瘍):女性に多く、悪性化の可能性がある。
  • SCN(漿液性嚢胞腫瘍):基本的に良性だが、診断確定のための画像評価が必要。

経過観察の基準(日本膵臓学会ガイドラインより)【5】

  • 嚢胞が 10mm以上 → 年1回程度の画像評価(MRIやCT)推奨。
  • 主膵管の拡張や腫瘤形成がある場合 → 速やかに専門医へ紹介。
  • 分枝型IPMN でも、5年間でがん化リスクは約2~5%とされ、**「経過を見ること自体が予防医療」**という位置づけです。

実際の対応

  • エコーで膵嚢胞を指摘された場合は、CTやMRIでの精査を行い、専門医(消化器内科・膵臓専門医)での経過管理が勧められます。
  • 良性と診断されても、年1回の経過観察が必要になるケースが多いです。

まとめ

  • 嚢胞はあらゆる臓器にでき得るが、その多くは良性で治療の必要がない。
  • 特に肝臓、腎臓、卵巣、甲状腺、乳腺、子宮頸部の嚢胞はよくある偶発所見。
  • 膵臓だけはがんとの関連を考慮し、慎重な経過観察が推奨される例外的臓器
  • 必要な場合だけ追加検査や観察を行い、不必要な不安や治療を避けましょう。

参考文献

  1. Carrim ZI, Murchison JT. The prevalence of simple renal and hepatic cysts detected by spiral computed tomography. Clin Radiol. 2003.
  2. Mortelé KJ, Ros PR. Cystic focal liver lesions in the adult: differential CT and MR imaging features. Radiographics. 2001.
  3. Terada N et al. Incidence and characteristics of simple renal cysts in a screening population. Am J Kidney Dis. 2002.
  4. Bosniak MA. The current radiological approach to renal cysts. Radiology. 1986.
  5. 日本膵臓学会. 膵嚢胞性病変の診療ガイドライン2022.
  6. O’Connor OJ et al. Incidental findings in imaging: frequency, follow-up, and clinical implications. Radiographics. 2011;31(2):331–349.