健康維持のためには、陽射しの強い夏の日光浴が効果的
はじめに
ビタミンDは、骨代謝、免疫調節、さらには慢性疾患の予防に不可欠な脂溶性ビタミンですが、現代の日本ではその不足が深刻で健康に影響を及ぼす国民的な課題となっています。ビタミンDはその大部分、約80〜90%は、皮膚が紫外線B波(UVB)に曝露されることで合成されます (Holick, 2007)。したがって、日光浴はビタミンDの生理的な維持において極めて重要です。
近年、多くの研究機関や行政、さらには地球環境研究センターなどのウェブサイトで、「1日あたり何分間日光に当たればよいか」といった“1日単位のビタミンD合成”を推奨する説明が広く見受けられます (地球環境研究センター, 2022)。これらは一見科学的に見えますが、実は脂溶性であるビタミンDの代謝特性を軽視した短絡的な視点と言えるでしょう。本記事では、「ビタミンDは季節単位で管理すべき」であるという立場から、その理由と地域性を考慮した適切な戦略について解説します。
ビタミンDの合成メカニズムと蓄積の仕組み
ビタミンDの合成は、皮膚に存在する7-デヒドロコレステロール(7-DHC)が紫外線B波(UVB、波長280〜315 nm)を吸収することから始まります。この吸収により、まずプレビタミンD3が生成されます。プレビタミンD3は、皮膚の温度に依存して徐々にビタミンD3に異性化します (Webb et al., 1988)。合成されたビタミンD3は血中に移行し、肝臓で25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D、貯蔵型ビタミンD)に、さらに腎臓で活性型ビタミンDである1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25-(OH)₂D)に変換され、全身で多様な生理作用を発揮します (Holick, 2007)。
このビタミンD合成と代謝のプロセスには、以下のような重要な時間的特徴があります。
- UVB照射から皮膚での合成、そして血中移行までには数日を要します。 これは、プレビタミンD3からビタミンD3への熱異性化が比較的遅いプロセスであるためです。
- 活性型ビタミンD(1,25-(OH)₂D)の半減期は約15時間と比較的短いです。 これは、生体内で厳密に調節されており、必要に応じて速やかにその作用が終結するよう設計されているためです。
- 貯蔵型ビタミンD(25(OH)D)の半減期は2〜3週間と非常に長いです。 この長い半減期は、ビタミンDが体内に蓄積され、比較的安定した血中濃度を維持することを可能にします (Heaney et al., 2003)。
これらの特徴から明らかなように、血中のビタミンD濃度を規定するのは、「その日の」紫外線曝露ではなく、むしろ過去数ヶ月にわたる累積的なUVB曝露と、それに伴う皮膚でのビタミンD合成量なのです。 実際、日本の成人を対象とした研究では、血清25(OH)D濃度と月間日照時間の間に時間的なずれが確認されています。具体的には、日照時間のピークが6月から7月に見られるのに対し、血清25(OH)D濃度のピークは約2ヶ月遅れの8月から9月にかけて現れることが報告されています (Okabe et al., 2018)。このタイムラグは、ビタミンDが皮膚で合成され、貯蔵型ビタミンDとして体内に蓄積されるプロセスが、即時的なものではないことを明確に示しています。
日本人は夏〜秋でもビタミンDが不足しているという事実
日本の気候において、紫外線の強さは季節によって大きく変動します。例えば、浜松市におけるUVインデックス(UVI)は、4月から8月にかけてUVI 6〜9(高レベル)に達する一方で、12月から2月にかけてはUVI 1〜2(非常に低いレベル)と大きく低下します (地球環境研究センター, 2022)。
ここで特に注目すべきは、現代の日本では、紫外線の影響の強い「夏〜秋」の時期においても、多くの人々でビタミンDが不足しているという事実です。 地球環境研究センターや国立健康・栄養研究所の調査によると、日本人の平均血中25(OH)D濃度は20〜25 ng/mL程度とされており、これは国際的に推奨される最適濃度である30 ng/mLを下回るレベルです (Pludowski et al., 2018; 日本内分泌学会, 2021)。さらに、東京都内の5,518人を対象とした東京慈恵医科大学の研究では、実に98%の日本人がビタミンD不足に該当するという驚くべきデータが報告されています(Miyamoto H, et al. 2023)。これらのデータは、ビタミンD不足がもはや特定の集団の問題ではなく、健康に影響を及ぼす国民的な課題であることを示唆しています。
なぜ、紫外線の強い時期でもビタミンD不足が広範に見られるのでしょうか。その主な理由は、現代の日本人の生活様式にあります。具体的には、屋外活動や日光曝露の習慣の不足、日焼け止めの常用、そして屋内勤務や長袖着用といったライフスタイルが挙げられます。これらの要因が複合的に作用し、たとえ紫外線が十分な時期であっても、皮膚でのビタミンD合成が不十分であることが明らかになっています。
さらに冬季になると、そもそもUVBが地表に届く量が極端に少なくなるため、日中の短時間の外出や、手のひらを日光に当てる程度では、ビタミンD合成はほとんど期待できません (Holick, 2007)。多くの啓発資料では、「1日に15分日光を浴びましょう」「週に2〜3回、手のひらだけでも日光にさらしましょう」といった「1日単位」のアドバイスが散見されます。しかし、これはビタミンDの体内動態や蓄積性、そして季節変動の実態を無視した表面的な助言に過ぎません。ビタミンDは脂溶性であり、皮膚や脂肪組織に一定量「蓄積」される特性を持っています。したがって、「毎日こまめに」日光を浴びるよりも、「合成可能な季節にまとめて体内に確保する」方が、生理学的にもはるかに合理的なのです。
冬〜春にかけての濃度低下と感染症の関連
ビタミンDは、単に骨の健康だけでなく、免疫系の調節にも深く関与しています。具体的には、自然免疫細胞であるマクロファージの活性化を促し、抗菌・抗ウイルス作用を持つペプチド(例えばカテリシジン)の産生を誘導することが知られています (Liu et al., 2006)。このため、冬から春にかけての血中ビタミンD濃度の低下は、インフルエンザや新型コロナウイルスを含む呼吸器感染症のリスク増加と関連があることが指摘されています。
実際に、COVID-19パンデミック下で行われた多くの観察研究やメタアナリシスでは、血中ビタミンD濃度が低い人ほど、COVID-19の発症リスクが高いだけでなく、重症化リスクや死亡リスクが高いことが報告されています (Grant et al., 2020; Martineau et al., 2017)。これらの研究結果は、季節性のビタミンD不足と感染症流行の相関性を改めて強く認識させるものとなりました。
現代の日本人において、冬だけでなく紫外線の強い夏でもビタミンDが不足しているという事実は、単に感染症のリスクを高めるだけでなく、がんや自己免疫疾患など、免疫機能が深く関与する様々な病態の一因となっている可能性も考えられます (Holick, 2007; Grant et al., 2020)。したがって、国民全体のビタミンDレベルを適正に保つことは、公衆衛生上の重要な課題と言えるでしょう。
食事・サプリメントよりも「夏場の光」が決め手となる理由
ビタミンDが脂溶性であることは、もう一つの重要な考慮事項につながります。それは、サプリメントによる過剰摂取のリスクです。ビタミンDの耐容上限量(UL)は成人で1日100μg(4000 IU)とされており、ビタミンDは脂溶性で体内に蓄積されるため、サプリメントで過剰に摂取した場合、高カルシウム血症や腎障害などの副作用のリスクが存在します (Vieth, 1999)。慢性的な過剰摂取は、血管や腎臓への異常な石灰化を引き起こす恐れもあります。
一方、食事からのビタミンD摂取は、特定の食品(脂肪性の魚類や一部のキノコ類など)に限られており、その寄与は全体のごく一部に過ぎません。前述の通り、ビタミンDの約80〜90%は皮膚が紫外線B波(UVB)に曝露されることで合成されます (Holick, 2007)。この事実は、適切なビタミンDレベルを維持するためには、日光を利用した皮膚合成を戦略的に考えることの重要性を示しています。自然な日光曝露によるビタミンD合成は、皮膚が過剰なビタミンDを生成するのを防ぐ自己調節メカニズム(プレビタミンD3やビタミンD3の不活性な光産物への変換)が働くため、過剰症のリスクが極めて低いという利点があります (Holick, 2007)。したがって、安全かつ生理的に合理的なビタミンDレベルの維持には、日光を最大限に活用するアプローチが不可欠です。
ビタミンD管理は「夏に蓄えて冬をしのぐ」長期設計を
ビタミンDは、服用後すぐに効果が現れるような即効性のあるホルモンではありません。今日の紫外線曝露が、今日の免疫機能や骨代謝に直接影響するわけではなく、現在の血中ビタミンD濃度は、おおよそ1〜2ヶ月前の太陽光曝露の記録であると解釈できます (Okabe et al., 2018)。公的機関が提供する「1日単位のビタミンD合成可能時間」データは、ある意味では参考になる一方で、ビタミンDの体内動態を正確に理解していない人にとっては誤解を招く可能性もはらんでいます。私たちは、ビタミンDの管理において、以下のような新しい視点を取り入れる必要があります。
- 日々の合成量に一喜一憂するのではなく、季節をまたいだビタミンDの蓄積を意識すること。
- 夏季の十分な日光浴を、体内のビタミンDを「預金」として積極的に蓄える「体内ビタミンDの預金期間」として活用すること。
- 安易にサプリメントに頼る前に、まず安全で自然なビタミンD合成ルート(すなわち日光曝露)を最大限に確保することを優先すること。
紫外線照射から皮膚でのビタミンD合成、そして血中濃度への反映という一連の流れには数ヶ月単位のタイムラグがあるため、季節変動と地域差を前提とした、長期的かつ戦略的なビタミンD管理が不可欠です。
例えば、札幌のような高緯度の地域では、冬場はビタミンD合成に必要なUVBがほぼ地表に届かないため、夏季に十分な日光浴を行い、体内にビタミンDを「貯蔵」しておくことが非常に重要になります (Wacker & Holick, 2013)。一方、浜松市のような中緯度・温暖地域では、春から秋にかけて比較的安定して日照が得られることが特徴です。地球環境研究センターの「UV・ビタミンD気候学的データセット」によると、浜松では3月中旬から10月中旬までの約7ヶ月間、日中に一定時間外出するだけでも、十分な紫外線曝露が可能であり、ビタミンD合成が期待できます (地球環境研究センター, 2022)。このため、浜松のような地域では「夏場にまとめて合成する」という戦略だけでなく、春から秋にかけての合成を計画的に意識することが、より現実的かつ効果的なアプローチとなります。
結論として、ビタミンDの管理は日々のルーティンとして捉えるのではなく、季節ごとの「設計」と「評価」が肝心です。とりわけ日本のように季節変動の大きな国では、春から秋にかけての合成を計画的に意識し、冬に向けて体内の貯蔵量を高めるという「季節型マネジメント」が強く推奨されます。これにより、年間を通して安定した、かつ最適なビタミンDレベルを維持し、健康増進に寄与することが可能となります。
参考文献一覧
- 地球環境研究センター. UV・ビタミンD気候学的データセット. 2022. Available from: https://db.cger.nies.go.jp/dataset/uv_vitaminD/ja/climatology.html
- Grant WB, et al. Evidence Regarding Vitamin D and Risk of COVID-19 and its Severity. Nutrients. 2020;12(11):E3642.
- Heaney RP, et al. Human serum 25-hydroxycholecalciferol response to extended oral dosing with cholecalciferol. Am J Clin Nutr. 2003;77(1):204–210.
- Holick MF. Vitamin D deficiency. N Engl J Med. 2007;357:266–281.
- Miyamoto H, et al. J Nutrition 2023; 153@1253-1264.
- Liu PT, et al. Toll-like receptor triggering of a vitamin D-mediated human antimicrobial response. Science. 2006;311(5768):1770–1773.
- Martineau AR, et al. Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory infections: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2017;356:i6583.
- 日本内分泌学会. ビタミンDの作用と健康. 2021. Available from: https://www.j-endo.jp/modules/glossary/index.php?content_id=102
- Okabe H, et al. Seasonal change of 25-hydroxyvitamin D3, 24,25-dihydroxyvitamin D3 and 1,25-dihydroxyvitamin D3, and correlation with UV-B and sunshine hours. Anal Sci. 2018;34(9):1043–1047.
- Pludowski P, et al. Vitamin D supplementation guidelines. J Steroid Biochem Mol Biol. 2018;175:125–135.
- Vieth R. Vitamin D supplementation, 25-hydroxyvitamin D concentrations, and safety. Am J Clin Nutr. 1999;69(5):842–856.
- Wacker M, Holick MF. Sunlight and Vitamin D: A global perspective for health. Dermatoendocrinol. 2013;5(1):51–108.
- Webb AR, Kline L, Holick MF. Influence of season and latitude on the cutaneous synthesis of vitamin D3: exposure to sunlight in Boston and Edmonton. J Clin Endocrinol Metab. 1988;67(2):373–378.

















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