FDG PET/CTによるがん検診の真の目的とは?──「超早期発見」への誤解を解く

がん検診におけるPET/CT(FDG PET/CT)の活用は、高悪性度がんの「そこそこ早期」の発見に特化しており、決して「すべてのがんを超早期に発見できる魔法の検査」ではありません。本記事では、PET/CTの原理と目的、誤解されがちな限界点、そして戦略的な活用方法について、理論的根拠を踏まえて解説します。

PET/CTの原理:ブドウ糖代謝の活性を見る検査

PET/CTで使われる薬剤FDG(18F-フルオロデオキシグルコース)は、ブドウ糖に似た構造を持ち、代謝が盛んな細胞に集まる性質があります。悪性腫瘍(がん細胞)は正常細胞に比べてブドウ糖代謝が高いため、FDGが集積し、画像上で明るく写ることで検出されます。つまりPET/CTは「ブドウ糖を旺盛に消費している悪性腫瘍を検出する」ための検査であり、逆に言えば代謝の低いがんや、サイズが非常に小さい超早期のがんは検出されにくいという性質を持ちます。

一般に、がん検診の理想は「がんをできるだけ早く見つけること」とされがちですが、PET/CTに関してはそのように超早期発見を目指している検査では無いことに注意が必要です。この検査の最大の特徴は、全身のがんを一度に評価できることと、悪性度の高いがんを比較的早期に検出できることにあります。

悪性度の低いがんはPET/CTでは検出困難だが

FDG PET/CTに対して批判的な論調として、しばしば以下のような意見が見られます。

「頻度の高い前立腺がん、乳がん、甲状腺がんの検出率が低いため、PET/CTはがんスクリーニングには向かない」

確かにこれらのがんは、代謝活性が低く、FDGが集積しにくいためPET/CTでの検出が困難です(Shie P, et al. 2008)。しかし、このような主張は、がんの「検出のしやすさ」だけでスクリーニング検査の有用性を評価している点で、本質的な誤りを含んでいます。重要なのは、それらのがんが「早期に発見する必要のある悪性腫瘍なのか」という点です。

これらのがんは比較的代謝が低く、PET/CTでは描出されにくいのですが、その多くが進行が遅く、致命的にならないことがわかっています。前立腺癌は頻度は高い一方で、多くの例は進行が遅く、無治療でも生涯無症状で経過するため、積極的な超早期発見よりも、必要に応じて観察・対応するほうが望ましいとされます。乳がんはサブタイプによってFDGの集積性が大きく異なりますがPETでの描出が難しいタイプは比較的予後が良く、死亡率も低いため、早期発見に大きな臨床的意義があるとは限りません。甲状腺癌もそのほとんどが乳頭がんであり進行が極めて遅く、無症状のまま一生を終えるケースも少なくないため積極的経過観察(Active Surveillance)が提唱されています(Ito Y, et al. 2010)。つまり、悪性の低いがんは無理に早期発見しようとすること自体が、必ずしも医療的に有意義とは限りません

感度だけで検査の有用性は決まらないので比較に惑わされるべきではない

PET/CTが真価を発揮するのは、肺がん・膵がん・大腸がん・頭頸部がんなど、進行が早く、致死性が高いがんを治療可能な段階で見つけることです。これらは代謝が高く、PET/CTでの検出に適しています。(Higashi T, et al. 2002; Delbeke D, et al. 2004)。

マスコミ記事や一部の医師によるSNSなどで学術論文などのエビデンスを引用して「PET/CTは○○に比べて感度が低いから検診には不向き」と記されることがあります。たとえば大腸がんは内視鏡でごく早期の病変を検出できますが、PET/CTはある程度成長した病変でないと見つけられません。このような観点から、「PET/CTは感度が低いからがん検診には向かない」とする意見がありますが、最新のエビデンスはあてにならないので、そのまま鵜呑みにしてはいけません。理論的に考える必要があります。このような論文ではその論文が比較している対象が“超早期発見”を目的とした検査である点に注意が必要です。感度は高ければそれで良いという話ではなく、「臨床的に意味のあるタイミングで発見できるか」「検査の負担はどの程度か」も重要な判断材料です。PET/CTは低侵襲で、全身を一度にスクリーニングできるという現実的かつ実用的な長所を備えています。

PET/CTの本当の価値:「そこそこ早期」で見つけられれば十分

現在のがん治療では、悪性度の高いがんであっても「そこそこ早期」に発見し、適切な治療を行えば根治が可能な時代になっています。つまり、「超早期」でなければ助からない、というわけではないのです。FDG PET/CTが得意とするのはまさにこの「そこそこ早期」の段階のがんです。たとえば、肺がんや大腸がん、膵がんなど、発見が遅れると致命的になりやすいほぼ全身のがんに対して、FDG PET/CTは一度の低侵襲な検査で、治療可能なタイミングで発見することができます。

一方で、内視鏡検査などは特定の臓器に対して非常に高感度で、より早期のがん(あるいは前がん病変)も検出可能です。しかし、侵襲性が高く、苦痛も伴うため、全ての臓器に対して毎年全身の内視鏡を行うことは現実的ではありません。PET/CTは非侵襲的かつ全身を一度に調べられる利便性を持っており、毎年のように侵襲性の高い内視鏡検査を受ける現実的負担と比べて大きな利点です(Kostakoglu L, et al. 2003)。

戦略的に検査を組み合わせられる施設を選ぶべき

とはいえ、全ての高悪性度がんがPET/CTで確実に見えるわけではありません。例えば、胃がん・肝がん・腎や尿路のがんなどは、腫瘍の性質や部位によってPETで見えにくいケースもあります。そのため、PET/CT単独ではなく、他の検査(MRI、超音波、腫瘍マーカーなど)を組み合わせることでスクリーニングの精度が高まるのです。大切なのは、PET/CTだけに頼らず、他の検査と戦略的に組み合わせてスクリーニングを設計できる施設を選ぶことです。そうすることで、検査の侵襲性とスクリーニングの網羅性のバランスが取れた、実用的で現実的ながん検診が実現します。

結論:PET/CTは「超早期発見の道具」ではないが、臨床的には極めて有効

FDG PET/CTは、がん検診において「治療可能な段階での高悪性度がん発見」に真価を発揮する検査です。「がんをすべて早く見つければ良い」という誤った前提にとらわれると、本来の利点を見失ってしまいます。

マスコミのエビデンス報道や一部論文の表面的な数値比較に惑わされず、がんの悪性度と検査の目的を正しく理解したうえで、最適な検査を選ぶことが重要です。

参考文献

Wilt TJ, et al. “Radical prostatectomy vs. observation for localized prostate cancer." N Engl J Med. 2012;367(3):203–213.

Avril N, et al. “Glucose metabolism of breast cancer assessed by 18F-FDG PET." J Nucl Med. 2001;42(1):9–16.

Ito Y, et al. “An observational trial for papillary thyroid microcarcinoma in Japanese patients." World J Surg. 2010;34(1):28–35.

Delbeke D, et al. “FDG PET and PET/CT for evaluating gastrointestinal tumors." J Nucl Med. 2004;45(1):135–148.

Higashi T, et al. “FDG PET imaging of pancreatic cancer: basic and clinical aspects." Clin Radiol. 2002;57(5):307–312.

Kostakoglu L, Agress H Jr, Goldsmith SJ. “Clinical role of FDG PET in evaluation of cancer patients." Radiographics. 2003;23(2):315–340.