高血圧の治療薬を飲み続ける必要はあるのか?──数字だけでは語れない“血圧”の本質

高血圧の治療は、「血圧をいくつまで下げるべきか」という議論と切っても切れない関係にあります。しかし、数値だけを見て一律に降圧剤を処方することが本当に正しいのでしょうか?とくに生活習慣病としての高血圧が広く認知されるようになってからは、その問いがより一層重みを増しています。

高血圧治療薬は「本態性高血圧」への適応から始まった

現在使われている降圧薬の多くは、明確な器質的原因のない「本態性高血圧(essential hypertension)」を対象に開発されてきました。本態性高血圧は、遺伝的要素や塩分感受性、交感神経の過活動などが複雑に絡み合って発症するとされるもので、日本人を含む多くの成人に見られる病態です。

しかし近年では、加齢や生活習慣の乱れに起因する高血圧が急増しており、これらのケースに対しても同様の治療が行われていることには注意が必要です。なぜなら、生活習慣の結果として起きる高血圧には、その背後に動脈硬化などの血管の変化があるからです。

高齢者の高血圧は「動脈硬化の代償反応」であることが多い

高齢者に多い高血圧の一部は、動脈硬化によって血管が硬くなり、血流が脳などの重要な臓器に届きにくくなることに起因します。この状態では、体は自動的に血圧を高めることで血流を維持しようとします。いわば「代償反応」です。

このような背景を無視して、ただ「血圧が高いから薬で下げましょう」というのは、生理的な適応を阻害することにもなりかねません。実際に、高齢者において過度な降圧は、脳血流の低下を招き、脳血管性認知症のリスクを高める可能性があります(SHEP Cooperative Research Group, JAMA, 1991)。

数字だけを見て治療を進めるのはナンセンス

高血圧治療ガイドラインでは、一般的に130〜140mmHg未満を目標とすることが多くあります。しかし、これはあくまで統計的なリスク評価に基づいた目安に過ぎません。大切なのは、**「なぜその人が高血圧になったのか」**という根本原因を見極めることです。

たとえば、運動不足、過度な塩分摂取、肥満、ストレスなどの生活習慣によって生じた高血圧であれば、まず生活習慣の改善を優先すべきです。これを飛ばして薬だけで数値を調整することは、問題の本質を放置することになります。

生活習慣の改善が第一の治療法

高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれ、自覚症状が少ないにもかかわらず、放置すれば脳卒中や心筋梗塞といった深刻な病気につながります。しかし逆に言えば、早期に生活を見直せば、薬に頼らずとも血圧を正常範囲に戻せる可能性があるのです。

血管の壁は平滑筋で構成されており、日常的に血圧の上下動にさらされることで柔軟性を保っています。運動不足などでこの刺激が失われると、血管は徐々に硬くなり、血圧も上がりやすくなります。つまり、運動習慣を取り入れることこそ、血管の健康を守る鍵なのです。

米国心臓協会(AHA)の報告でも、有酸素運動を週に150分以上行うことが、軽度〜中等度の高血圧の改善に効果的であるとされています(Pescatello et al., Hypertension, 2015)。

降圧薬が必要なケースももちろんある

誤解してはいけないのは、「すべての降圧薬が不要」というわけではないという点です。生活習慣の改善だけでは血圧が安定しない場合、あるいはすでに臓器障害(腎機能障害、心肥大など)が見られる場合には、薬物治療が重要な役割を果たします。

また、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)を合併している患者では、より厳格な血圧管理が推奨されることがあります。これらはリスクの高い背景因子であり、血圧を放置すれば速やかに合併症が進行するおそれがあるからです(KDIGO guidelines, 2021)。

「薬を飲むかどうか」は、ケースバイケース

高血圧の治療は、患者ごとにまったく異なるアプローチが必要です。「血圧が150を超えたからすぐに薬を飲む」といった画一的な判断は避けるべきであり、必ず主治医と相談し、自身の生活習慣や体調、検査結果をもとに判断することが重要です。

数字だけを見て判断することは簡単ですが、そこには一人ひとり異なる「身体の事情」があるのです。とくに高齢者では、過度な降圧によって生活の質(QOL)が落ちる可能性があることも忘れてはなりません。

おわりに:血圧は「生活の鏡」

血圧とは、単なる数値ではなく、日々の生活と身体の状態を映し出す“鏡”のようなものです。薬でその鏡の数字だけを変えても、本質的な解決にはなりません。

まずは生活を整え、自分の体と向き合うことから始めてみてください。そして、どうしても薬が必要な時は、信頼できる医師とともに、納得のいく治療を選びましょう。高血圧治療は、単なる「数値の管理」ではなく、自分らしく健康に生きるための選択なのです。

参考文献:

  1. SHEP Cooperative Research Group. Prevention of stroke by antihypertensive drug treatment in older persons with isolated systolic hypertension. JAMA. 1991;265(24):3255-3264.
  2. Pescatello LS, et al. Exercise and Hypertension: American College of Sports Medicine Position Stand. Hypertension. 2015;67(1):1-9.
  3. KDIGO. Clinical Practice Guideline for the Management of Blood Pressure in Chronic Kidney Disease. Kidney International Supplements. 2021;11(3):1–87.
  4. 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024.