画像診断には目的がある 〜がん検診で「肩こりの原因」はわかりません〜
現代の医療において、CTやMRIなどの画像診断は非常に重要な役割を果たしています。しかし、その便利さゆえに、画像検査に対して過剰な期待や誤解を持ってしまう方も少なくありません。特に「がん検診を受けたら、ついでに肩こりや頭痛の原因もわかりますか?」といったご質問をいただくことがありますが、これは画像診断の本来の目的を誤解された典型例です。
結論から言えば、画像診断は目的があって初めて意味を持つものであり、検査の目的外の質問に答えることは原則としてできません。以下では、その理由をわかりやすく説明していきます。
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すべての画像診断には「問い」がある
医療において、画像診断とは「医師がある問いに対して、画像という手段で答えを探る行為」です。たとえば「この患者の発熱の原因は肺炎か?」という問いに対して胸部X線を撮影したり、「この腹痛は虫垂炎ではないか?」という問いに対して腹部CTを行ったりします。
つまり、画像診断は単に「体の中を見ている」のではなく、「ある仮説を持って、限られた部位を、特定の方法で撮影し、それに対する答えを読み取っている」のです。ですから、その仮説(=問い)がない画像検査というのは、そもそも存在しないか、意味を持たないと言っても過言ではありません。
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がん検診における「問い」とは何か
がん検診も例外ではありません。がん検診において設定されている問いは明確です。すなわち、**「自覚症状のない人に、見逃されている重大ながんが隠れていないか?」**ということです。
この目的に応じて、例えばPET/CTであれば全身を広くスキャンし、代謝の異常を可視化することで、症状が現れる前のがんを早期に発見しようとします。しかし、ここで重要なのは、「がんかどうか」を探しているのであり、「肩こりの原因」「頭痛の原因」「腰痛の原因」といった、別の問いには対応していないということです。
がん検診では、仮に画像に他の情報が映っていたとしても、読影医がそれを細かく見ているとは限りません。なぜなら、読影医も「がんの有無」という問いに答えるために画像を見ており、それ以外の事柄については診断の範囲外だからです。
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偶然見つかる「副産物」には限界がある
とはいえ、検診画像から「がんとは無関係な異常」が見つかることもあります。たとえば、腰椎の変性所見(加齢による変化)や、良性の肝嚢胞などです。これらが報告書に記載されることもありますが、それはあくまでも偶然見えたものであり、なおかつ報告したほうが親切だと判断された場合に限られるのです。
たとえば腰痛を訴える患者さんに対して、腰椎MRIを撮るときには「腰痛の原因があるか?」という問いに基づいて撮影され、読影もその視点で行われます。対して、がん検診のついでに映った腰椎は、必ずしも詳細に写っているとは限りませんし、「自覚症状のない人」という前提で読影するため、読影医もその視点では見ていません。
このように、同じ画像であっても、「目的」によって撮影方法も読影の視点も変わるため、検診画像から「がんと関係のない症状の原因」を見つけ出すことは困難なのです。
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偶発所見の報告には慎重さが求められる
画像診断の現場では、「偶発所見(たまたま見つかった異常)」への対応も一定のルールがあります。命に関わるような重大な異常(例:大動脈瘤や進行がんなど)であれば、検診目的外であっても報告すべき責任があります。しかし、そうでない所見まで全て報告してしまうと、かえって受診者に不安を与えたり、不要な追加検査が行われたりするリスクもあります。
そのため、検診の現場では「よほどのことがない限り、目的外の所見は報告しない」のが通例です。これは決して手抜きではなく、「検診の目的に沿った正しい情報提供を行う」という考え方に基づいています。
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症状があるなら「検診」ではなく「受診」を
ここまで読んでいただくとおわかりいただけたかと思いますが、「肩こり」「頭痛」「腰痛」といった症状がある場合には、検診ではなく受診をして、その症状に合った検査を受けるべきです。
医療機関を受診すれば、問診や身体診察の結果に基づいて、必要な検査が選択されます。例えば、肩こりであれば整形外科的な問題か神経的な問題かを検討し、必要ならMRIや血液検査を行います。頭痛であれば、脳卒中や腫瘍の可能性を考えて脳の画像を撮影することもあります。
一方で、がん検診は無症状の人が対象であり、「病気がないことの確認」あるいは「初期のがんの早期発見」が目的です。症状がある人が検診を受けてしまうと、正しい診断にたどり着くまでの道が遠回りになる可能性もあるため、注意が必要です。
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まとめ:画像診断の力を正しく理解するために
画像診断は医療の強力な武器であり、がんの早期発見や病気の重症度評価に欠かせない手段です。しかし、それは**「明確な問い」に対して用いられるときに初めて力を発揮する**ものです。
がん検診に画像検査を用いる場合、その問いは「がんがあるかどうか」であり、それ以外の問い、例えば「肩こりの原因」「頭痛の原因」「慢性疲労の理由」などに答えることは想定されていません。
症状がある場合は、ぜひ医療機関を受診し、その症状に応じた適切な検査を受けてください。画像診断を正しく理解し、正しい目的で活用することが、医療を無駄なく、有効に使う第一歩となるのです。

















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