エネルギー消費から見たトレーニングの種類と効果

健康相談を受けていて1番多い相談内容は、内臓脂肪や血圧、コレステロールに関する生活習慣病の対策です。生活習慣病対策としては1. 糖質のバランスを整えること、2. 内臓脂肪を燃焼させることの2つが重要なポイントとなります。健康のために夕食後に15分ほど歩くようにしていますという話をよく聞くのですが、残念ながら夕食後の15分のウォーキングはあまり効果がありません。健康のための身体作りという観点でトレーニングについて考えてみましょう。

筋肉が動くためのエネルギー源「ATP」とは?

筋肉が動くとき、直接使われるエネルギーは「ATP(アデノシン三リン酸)」という物質です。ATPは筋肉を収縮させる“ガソリン”のような役割を果たしますが、体内にストックされている量は非常に少なく、数秒で使い切ってしまいます。 そのため、筋肉が動き続けるためには、ブドウ糖や脂肪を使ってATPを産生し続ける必要があります。ブドウ糖からATPを産生するためには、あまり酸素を必要としませんが、脂肪からATPを産生するためには酸素を必要とします。トレーニングの種類は、酸素の必要性に応じて有酸素運動、無酸素運動、混合型運動の3種類に分けることができます。それぞれの運動がどのような仕組みで行われているのかを理解することで、健康のためにどのように利用することができるか、実際に行うときにどのような点に気をつければ良いかが理論的にわかります。

✅ ATPを作るエネルギー供給の3つの道筋

エネルギー供給経路 主な燃料 酸素の必要性 主な運動例
クレアチンリン酸系 クレアチンリン酸 不要 短距離走、ジャンプなど瞬発系
解糖系 ブドウ糖(グリコーゲン) 不要または少量 筋トレ、HIITなど
有酸素系 脂肪・ブドウ糖 必要 ウォーキング、ジョギングなど

1. 有酸素運動(Aerobic Exercise)

ジョギング、サイクリング、水泳、ウォーキング などに代表される有酸素運動ではエネルギー源として主に脂肪を消費して酸素を利用してATPを産生します。脂肪は筋肉内のミトコンドリアで酸素と反応し、「β酸化」と呼ばれるプロセスを経てATPを大量に作ります(脂肪1分子あたり最大100以上のATPが産生されます)。ただし脂肪はすぐには使えず、運動開始直後はまず筋肉内のブドウ糖(グリコーゲン)が使われるため脂肪が燃え始めるまでには10〜20分ほどの時間が必要とされます。また食後はインスリンが分泌されて脂肪の分解が抑制されるため、インスリン値が低い空腹時(朝や食後2〜3時間後)に行う有酸素運動が脂肪が使われやすいとされています。

2. 無酸素運動(Anaerobic Exercise)

短距離ダッシュ、筋力トレーニング、HIIT(高強度インターバルトレーニング)などの無差酸素運動では主に筋肉内のグリコーゲン(ブドウ糖)が使用され、酸素を使用せずにATPを素早く生成します。少しイメージが違うかもしれませんが、太極拳やヨガなども姿勢系の自重筋力トレーニングに相当すると思います。無酸素運動ではブドウ糖がエネルギー源となるのでトレーニング中に必要なのは糖質(ブドウ糖)です。糖質は素早くATPを供給し、爆発的な力を発揮するのに不可欠です。

3. 混合型運動(Mixed-Type Exercise)

一般的なスポーツ競技(サッカー、バスケットボールなど)は有酸素運動の要素と無酸素運動の要素を持ち合わせているため、混合型運動と呼ぶことができます。トレーニングとしては、サーキットトレーニングやエアロビックスが相当すると考えられます。ATPの産生効率は酸素を使う有酸素運動の方が高いのですが、運動強度が高くなると酸素供給が需要に追いつかず、無酸素運動にスイッチします。有酸素運動と無酸素運動の中間の強度の運動を行うことで、効率よくATPを賛成できる有酸素運動から無酸素運動に切り替わる閾値を上げることを目的としています。

健康のためのトレーニングの利用方法

ATP消費に関する3つの運動の仕組みを理解した上で、健康のためにどのように利用していくか考えてみましょう。生活習慣病対策としては1. 糖質のバランスを整えること、2. 内臓脂肪を燃焼させることの2つが重要なポイントとなります。1. 糖質のバランスを整えるためには、糖質の摂取量を減らし消費量を増やす必要があります。上記の仕組みが理解できていれば糖質の消費量を増やすためには、ウオーキングなどの有酸素運動ではなく筋トレなどの無酸素運動が有効であることが理論的にわかります。

また2.内臓脂肪を燃焼させる目的のためには、有酸素運動が効果的ですが運動開始直後(20分ほど)はブドウ糖が消費されるため脂肪を燃やすためには空腹時に長い時間続ける必要があることが理論的にわかります。夕食後の15分のウォーキングでは不十分な理由はここにあります。有酸素運動をするのであれば夕食前に1時間のウォーキングが効果的です。

最後に筋トレでの身体作りを目指す際にも注意が必要です。エビデンス的には「筋トレ=たんぱく質補給」と思いがちですが、最新のエビデンスはマーケティング目的で発信されることが多くあまりあてになりません。理論的に考えれば筋肉トレーニング中に必要なのは糖質(ブドウ糖)です。 痩せるのが目的ではなく筋トレでの身体作りを目的として行うのであれば、ご飯をしっかり食べましょう。タンパク質の補給だけでは不十分で糖質の摂取が不可欠です。

📚 参考文献一覧

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